教師の子どもはいい子に育つのか? Vol. 2 〜親と先生の違いとは〜

教師の親という仮面

先ほどの問い。「教師はいい親になれるのか」これをもう少し詳しく言うと、「学校教育のプロである教師が子育てをするとどうなるのか。」ということを考えてみたいと思います。

巷には家庭教育に関する本があまたあります。その多くは子どもとのかかわりのものが多いです。

アマゾンの子育て本のランキングのタイトルを見てみると(2022,11)、『自分でできる子に育つほめ方育て方(島村華子)』『どならない練習(伊藤徳馬)』『子どもの自己肯定感が高まる天使の口癖(白崎あゆみ)』などです。

タイトルからだけでの判断ですが、家庭の中で親が子どもにどうかかわるかということが書かれているのだと思います。

つまり、子どもに対して親は何ができるかという親-子という関係の中で語られています。

至極当然のことです。親が子どもにどのようにかかわるかを考え、うまくいかないとき、けんかするときやつらくなるときもありますが、反対にすごく幸せな気分になれたり、子どもの姿に感動したりしながら、親子関係を築いていくのだと思います。

でも、このような本が売れる理由は親であっても(親だからこそ)子育ては難しいということだと思います。

妻も子育てで悩み苦しんできた一人です。

私のように子どもが好きであっても、実際に子育てとなるとうまくいかないときの方が多いです。

私は長男が生まれ、自分の言葉で思考を整理していく五歳ぐらいの時期、私は教師7年目。

ちょうど教師として自信がつき、いい意味で『子ども理解』が進んだ状態でもありました。

『子どもってこうしたら動く』『子どもってこんなこと考えている』とフレームをつけて子どもを理解していました。

その時に手を出していたのが早期教育でした。

子どもの認知能力をつけるために子どもの発達にとっていいなと思うことはすべてやっていたことを思い出します。

毎日絵本の読み聞かせをし、会話は基本的に質問形式、数の概念の獲得のために『これは何個?』とよくきいていました。

また、文字言語を扱えるようにもなってきていたので、某学習教材を使って知育に励んでいました。

長男が小学一年生の時、算数の繰り下がりの引き算で躓くということがありました(13-8=5のようなものです)。

その時、私はちょうど一年生の担任。自分の中で教師魂がめらめらと燃え、家で計算カード 100ます計算 プリント学習をたくさんやらせるようになりました。

子どもをどう伸ばすのかについて専門性を持っていたがゆえにたくさんの学習を家でさせていました。

もちろんできるようにはなってきたのですが、ある時息子が『パパと勉強するの嫌だ』ということを妻に言うようになったのです。

そのときはショックでした。自分の教師としての自信が砕け散った瞬間でした。

息子曰く『なんかパパ勉強になると怖い』らしいのです。

このエピソードは教師がいい親になれるとは限らないということを示しているのだと思います。

それは教師なんだから勉強させないといけない、教師なんだから勉強を教えるのが得意というバイアスがかかっていたのだと思います。

私の家庭学習の熱意は消え、学校のように教えるのはやめようと思うようになりました。

親としてできることは何か

子どもたちは学校では私に対して教師という見方しかしていません。だから、私は学校で堂々と教師ができるわけです。

しかし、家庭では、わが子は私を教師としてみているわけではないのです。パパなんですよね。

先ほどの息子とのエピソードから感じたことがあります。

それは息子にとっては自分の親がたまたま教師だっただけで、息子は私に教師の役割を求めていたわけではないと気付いたことです。

このことはある意味、教育のプロだからこそ、『教師はすごい親』にならないといけないという固定観念に縛られていたから、思い違いをしていたのかもしれません。

皆さんは「親として、子どもにやってはいけないこと」は何だと思いますか?

自分のできないことを子どもに求めたり、過干渉があったりなどがやってはいけないことでしょうか?

いわゆる毒親という言葉もあるでしょうが、何だと思われますか。

私が子育ての経験から学んだのは、『わが子を、私が出会ってきた多くの他の子どもと比べないこと』だと今は思っています。

なぜならわが子は親から自分を見てもらえないと感じてしまうからです。

学校では子どもたちは、教師に全体の中の一人としてみられていることはよく分かっています(もちろん自分を見てほしい子もいますが)。

だから、子どもたちは授業中は基本的に教師の話を静かに聞きますし、自分のやりたくないことでも教師の指示だからやってくれます。

子どもたちは教師としての大人のいうことを聞いてくれているのです。

それは教師のことを権威者として見ているのだと思います。

しかし、親子関係は違います。子どもにとって親は一人しかいないのです

私が息子に対して行っていた子育てはまさに『多くの子どもたちと比べて、その眼鏡でわが子をみていた』ということなのだと思います。

集団指導をしていくことや発達や認知のことは理解していても、わが子のことは分かっていなかったのかもしれません。

教師の私が親として家族とかかわること

最初に皆さんにお聞きしたように、『教師の子どもはいい子になるのか』。この答えは教師と親のかかわり方の違いにあるのだと思います。

私は教師と親のかかわり方の違いは、教師は覚悟をもって子どもを育てるということ。

そして親は自分の人生を子どもとともにご機嫌で生きることだと思っています。皆さんはどう思われますか。

親としてできることは、子どもも親もご機嫌に毎日過ごせる人生経験をしていくことなのだと思います。

担任を持つクラスの子どもたちにこんなことを聞いたことがあります。
『大切な人は誰ですか?』

もちろん友達や兄弟、おじいちゃん、おばあちゃんなどを挙げる子はいますが、9割の子は自分の親をあげます。しかもほとんどが『お母さん』です。

理由を聞くと『いつも僕のことを大切にしてくれるから』『話を聞いてくれたり、アドバイスしてくれるから』『ほめてくれるから。優しいから』と言ってくれました。

普段お母さんについて文句を言っている子でさえも・・・。

きっと、子どもたちにとって、親はやさしく自分を受け入れてくれる存在であると無意識に思っているのでしょう。

子どもは赤ちゃんの時からスキンシップ(特に授乳時)を受け、それと同時に『かわいいねえ』『おなかすいたのぉ?』などの言葉を親からかけてもらいます。

脳科学的にはこの授乳の時に脳内ホルモンのオキシトシンが放出され、同時に幸せホルモンであるエンドルフィンやセロトニンを分泌します。

親の言葉、音の高さやイントネーション、声の響きや表情などが子どもにとって慣れ親しんだ幸せを運ぶ役割をしているのだと思います。

だから教師である私がいくら子どもたちに愛をもってかかわったとしても親御さんにはかなわないということです。

この時に親の態度はどうあるべきなのかということです。

それは「親自身が自分の人生をご機嫌に生きること」。

ここに尽きるのではないでしょうか。

親自身が自分の人生を生きること。そこに他者を介在させずに自分の人生を生きるということです。

七つの習慣でいうと『主体的に生きること』、アドラー心理学でいうと『課題の分離』をすることです。

子どもであっても他者です。その自分とは違う子どもを親がコントロールしようとしないこと。いうことを聞いてくれると思わないことが重要だと思うのです。 

その時に親の心持は、自分の子どもを自分だけで育てようと思わないことだと思います。

そう。みんなで子どもを育てることをみんなで信じぬくことしかないのだと思います。

子どもを育てるのは保育園や学校の先生でもいい。塾の先生や、習い事のコーチでもいい。地域の人でもいい。行政や民間の支えてくれる方でもいい。

親が自分だけで子育てをしないといけないという呪縛から解放されて、自分以外の人に頼って、子どもを育てようとしてくれている人を信頼していくことだと思います。

もちろん親の責任はあります。教育基本法にも示されているように子育ての第一義的な責任は養育者にありますから。

でも、親が自分の子どもを育ててくれる人の存在を知って、その方と子どもの未来について語り合い、一緒に子どもを育てることを体現していくことがこれから大切なのだと思うのです。

子どもたちの未来を作るために、社会の器は案外あります。

子どもを育てようとしてくれる人を信じることが重要ではないかと思うのです。

だから私は、家庭では我が子にはいろんな人が関わってほしいなと思ってつなげるパイプ役のようなことをやっています。

池田文子・元小学校教員
先生であっても、親子だからこそ、割り切れないものが誰しもあると思います。「何百人見てきても、子どもは一人ひとり違うのだ」ということを痛感するのが子育てかもしれません。
私は自分の子育てを通して、先生だからこそ、子どもに対する肯定的な関わりかたを一番大切にできたのは、すごく良かったと思っています。その一方で、先生であることは関係なく、家族として親として、理屈じゃどうにもならない思いや困難さを感じることも多くあります。今回の記事で、子育ての難しさと喜び、教員として子どもを見つめてきた経験の大切さを改めて考えさせてもらいました。
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