夢みる大人たち

「子どもたちがご機嫌になれる学校をつくりたい」Vol.2

前の記事で、愛媛県で「ご機嫌な学校を作ろうプロジェクト」がスタートしたことを書きました。

※前の記事はこちら

あれからこのプロジェクトメンバーも増え、2022年10月「ミライノタネ」という団体を設立しました。

当団体の最初の活動として、ドキュメンタリー映画「夢みる小学校」(1)の自主上映会を愛媛県西予市で開催しました。

今回の記事では、上映会を終え、ミライノタネ代表を務める森野由香さんの想いや夢みていることについて話したことをまとめました。

主体性や考える力を伸ばす「自由」とは

吉田:「夢みる小学校」上映会プロジェクトのきっかけは何ですか。

森野:まずは、「夢みる小学校」に出てくるような学校もあるということを多くの方に知ってもらいたかったです。

私は以前から、「新田(しんでん)サドベリースクール」(2)や「フォルケホイスコーレ」(3)が掲げる信念がとてもいいなと思っていました。

例えば、新田サドベリースクールの「学びの喜び」や「多様性の尊重」、フォルケホイスコーレの「自由と対等な関係」や「永続的な学び」という信念です。

でも、そのような学校が四国になく、ないのであれば早く創りたいなと思っていました。

新しい学校を創るに当たって、地元の教育委員会や学校の先生、地域の方々に知ってもらいたいと思っていたので、この上映会を行いました。

吉田:とても素晴らしい信念ですね。

まずはその学校の存在を知ってもらうことはとても大切だと思います。

森野さんの中で、「サドベリースクール」や「フォルケホイスコーレ」のいいなと思った点はどんなところですか。

森野:「自由」というところですね。また、「何しててもいい」、「否定されない環境がある」ことがいいなと思います。

「自由」があることで、自分で考えないといけないので、考えて動く力や主体性が伸びると思います。

吉田:確かにそうだと思います。

森野:昔、私は指示待ちだったり、主体性がなかったりして、実際社会人になった時、「自分の頭で考えて動く」ことが苦手で、そんな自分に劣等感を感じていました。

子どもたちには私のように育ってほしくないと思っていますが、主体性を伸ばすには「自分で考える力」が必要です。

現在の学校教育は子どもたちをレールの上に乗せ、一律の教育をしているので、これでは主体性は伸びないだろうなと思います。

このようにして見ると、「サドベリースクール」や「フォルケホイスコーレ※」は日本の学校教育にはないよい点がたくさんあります。

吉田:そのような学校、とてもいいなと僕も思います。

この「自由」という言葉はとてもいい言葉ですし、「放任(主義)」とは違いますよね。

森野:そうです。色々な捉え方はありますが、「安心できる自由」、「無視されているのではなく、温かいまなざしがある自由」というイメージですね。

吉田:「安心」や「温かいまなざし」はとてもいいことですし、主体性や自分で考える力がもてるように成長するために大切な要素だと思います。

※「フォルケホイスコーレは、17歳以上であれば誰でも入学することができます。大学に進む前に本当に興味のあることが何なのかを探したい人や、職種を変更し新しいことにチャレンジしたい人がフォルケホイスコーレに入学し、自分が学びたい教科を好きに選択して納得できるまで学びます。」(一般社団法人IFAS)とあるように、20歳前後の生徒が先生も一緒に同じ学校の中に暮らし、自分が学びたいことや人生に活かしたいことを見つける教育機関です。

「新しい学校」を数多くある選択肢の一つに

吉田:ミライノタネの活動のファーストステップ、「夢みる小学校」の上映会を通して感じたことは何ですか。

森野:今の学校教育の現状に対して違和感を感じたり、変わらないといけないと思ったりしている保護者や大人がたくさんいることを肌で感じました。吉田さんはいかがでしたか。

吉田:僕も同じようなことを感じました。映画に出てくるような学校を望んでいる、実現して欲しいと思っている方がたくさんいることを知って、嬉しくなりました。 

森野:そうですよね。それから、選択肢があることの良さも感じました。

私たちが創りたい学校が正解・不正解ではなく、子どもたちが「違う学校に行きたい、今の学校のスタイルが自分とは合わない、もっと他に学びたいことがある」と思ったときに、選択肢がいくつかあることはとても大切だと思います。

吉田:僕も同じです。選択肢の一つとして、僕たちの創りたい学校があればいいなと思います。

以前も森野さんと話したかもしれませんが、西予市の小学校が統廃合で1校になる再編計画が策定された記事(4)が出ましたね。

「ちょっと待った」と言いたいところです。

森野:そうですね。実際私たちが創りたいと思っている新しい学校は、古民家の活用をイメージしています。

実は、私の母校の小学校もいずれ統廃合でなくなってしまう可能性があります。

ですが、先日、上映会に参加された方とお話しする機会をいただき、今ある公立の学校と古民家の学校を合体させた学校もいいかもしれない、という話が出ました。

吉田:それはとても斬新で、おもしろそうですね。

森野:私たちの学校が自治体から認可されれば、そのような形の学校もできそうですし、学校として様々なカリキュラムを提供できると思いますが、ハードルは高そうです(笑)。

吉田:でもそのような新しい形の学校が創れるのであれば、夢が大きくなりますね。

森野:そうですね。市外や県外からも「私たちの学校に通ってみたい」と思ってくれる子を増やしたいと考えているので、学校としての拠点をもち、敷地は大きい方がいいかなと思います。

吉田:色々な子どもが集まってほしいですし、僕たちが創った学校と別の学校との交流の場を設けて、広い視野をもたせる活動もしたいですね。

大人や学校に「当事者意識」と「心の余裕」、「柔軟さ」を

吉田:親になって、学校や先生に対して、何か感じることはありますか。

森野:小学4年生の娘がいまして、毎年学校から来る「教育に関するアンケート調査」を謎、不思議に思っています。

吉田:僕が勤めていた学校でも、その調査をしていました。

森野:例えば、その調査の中で「学校はちゃんと授業していますか」や「いじめの対応を学校はきちんとしていると思いますか」などの質問がありますが、果たしてこの調査の意味はあるのか、と思うことがあります。

保護者からなかなか見えない部分もあり、十分には分からないので。

吉田:保護者目線で回答して、と言われても難しい部分はありますよね。

森野:また、校則に関しても、ランドセルにキーホルダを1個しかつけてはいけないのはなぜなのか、靴下の色はなぜ白でないとダメなのかなど、親になってから疑問を感じることが多いです。

学生の時は、校則に関して違和感をもったことはなかったのですが。

吉田:疑問をもって当然だと思います。

改めて考えると僕も「なぜだろう」と疑問に思っています。

森野:もう一つ思い出しました。最近のことです。

とある小学校の校長先生が、コロナ禍の放課後、子ども数人が集まって外で遊んでいたことを知り、その子たちに「約束も守れないやつはこの学校に要らない!転校するか!?」と強く言ったのです。

こう言ったのが校長先生という立場だったため、他の先生方も言い返せなかったようで、学校内で上下関係や立場の違いが原因で本音を話せないことは、あってはならないと思いました。

吉田:それはとても辛いですね。

学校で言われたことを守ってほしい校長先生のお気持ちもあるかと思います。

でも、子どもたちが遊ぶ環境のこと、子どもの活動をどう支えるかなどの点を、先生や保護者、地域の方を含めた大人が他人事ではなく「当事者」となって考えないといけないと思います。

森野:また、2年ほど前に、「サドベリースクール」に我が子を通わせたいなと思っていまして、そのことを学校の先生に相談しに行きましたが、「私にはわかりません」と言われました。

先生によって対応や考え方が違うのだな、と思いました。

一人一人考え方は違い、それは当然のことではありますが、先生からは変わった親だと思われてたのだろうと思います(笑)。

吉田:それを聞いて、僕が教員として若手だったころを思い出しました。

当時、目の前の業務に追われたり、学校教育に関して昔の考え方をもっていたりしたので、色んな視点を考える余裕もなく、変わったことを聞く保護者に対して、どう回答してよいのか分からない自分がいました。

でも今では、色々な経験をしたり、多くの方と出会ったりしてきて、僕と違う考えをもつ方が多く、様々な考え方があるのだなと思うようになり、柔軟に考えられるようになりました。

森野:「柔軟さ」がある人はとてもいいですね。何かに対して柔軟に対応してくれる先生も。

吉田:学校の教員こそ、現在は多大な業務があるにしても、色んな視点を学ぶことは大切ですね。

森野:「夢みる小学校」に出てくる学校の大人のように、自由で心に余裕があり、リラックスしていると、子どもへの影響もよりよいものになっていくと思います。

子どもの「根っこ」を育む

吉田:大人(親)として今の子どもたちへ届けたいことは何ですか。

森野:「好きなことをしよう!」と言いたいですね。

子どものうちは毎日楽しく過ごすのがいいと思います。

今のうちにたくさん遊んで、好きなことを追求していってほしいです。それにつきますね。

吉田:小学生になって、集団行動していく上でガチガチのルールを守らせるよりも、それは大切なことだと今になって思います。

森野:たくさん遊んで「根っこ」を伸ばさないといけないと思います。大人になって目の前の課題や壁にぶつかったときに諦めたり消極的になったりするのは「根っこ」が育ってないからだと思います。

大人だって夢みている

吉田:森野さんが今夢みていることは何ですか。

森野:子どもや周りの人たちが、自分のしたいことをして楽しく過ごしてほしいです。

私自身も好きなことをして、「やりきった!」と感じて人生を終えたいですしね(笑)。

そのために、私たちが理想とする学校を創り、また全国にも色々な学校ができて、自分が学びたいことを自分で選べられるようになるなど、学びに対する自由度を増やしていけたらなと思っています。

吉田:海外では、そのような教育システムを取り入れている国もありますので、日本も社会がそのようになっていったら、毎日楽しく過ごせそうですね。

森野:それから、子どもたちが自ら「死」を選んでしまうのが無くなってほしいですし、世の中から「不登校」という言葉が無くなってほしいです。

吉田:本当に。それは、僕もずっと考えていることです。

「学校に行かないといけない」「学校に出席するのが当たり前」という考え方によって、ある一定の日数以上を欠席したら「不登校」扱いになり、大人の都合で子どもたちが苦しんでいるのです。

森野:「不登校」が昔の言葉になればいいですね。

「子どもが学校に行かないことを選んで自宅で勉強しているのです」などの会話が自由にでき、不登校に悩む保護者が減ると思います。

子育てへのストレスが減りますね。

吉田さんが思い描く理想の学校や教育はありますか。

吉田:森野さんと同じように、子どもたちが自分で考え、行動し、学ぶことができる学校ができたらなと思います。

また、そこに通う子どもや大人たちで、話し合いをもちながら協力して学校をよりよくしたり、様々な活動を行っていったりする学校にもしたいです。

そして、その学校が、数多くある学校の選択肢の一つとして自由に選択でき、子どもたちにとっての居場所となればいいなと思います。

森野:「夢みる小学校」のように、色んな活動やプロジェクトを入れていきたいですね。

愛媛県の西予市だと米作りが盛んですし、愛媛のみかん農家さんとコラボする活動もできたらいいなと思います。

今後やるべきことがたくさんありすぎですが、これらの活動を継続させるためにも、資金面も考えながら進めていきたいですね。

令和5年4月から「こども家庭庁」が発足したので、そちらからの協力も得られればなと思います。

吉田:まだまだ課題はありますが、できることからトライしていきたいですね。

森野:そうですね。できることを探して楽しく進めていきましょう。

「未来のタネ」の成長を支える「土壌」

ミライノタネの「ご機嫌な学校を作ろうプロジェクト」はスタートしたばかり。

何もないところから新しいものを創りあげていくような活動のようにも思えるかもしれません。

先日開催した「夢みる小学校」の自主上映会を観に来てくださった方々の中に、ミライノタネの活動を応援してくださる方や「協力したいです」と言ってくださった方もたくさんいました。

子どもが「未来のタネ」であれば、大人や社会はその周りの「土壌」です。

大人も新たな視点を知り、学び、夢に向かって進み、子どもにとって必要な環境を整えていかなければなりません。

一人で大きなことを成し遂げるのは大変ですが、仲間や協力してくださる方の力を束ねて少しずつ行動すれば、目指す方向へと進むことができます。

前途有望なミライノタネの活動、「夢みる大人たち」の活動が、子どもたちに勇気と元気を与えられる存在となれば嬉しいです。

(1) https://www.dreaming-school.com/(まほろばスタジオ)
(2) http://shindensudbury.org/ (新田サドベリースクール)
(3) https://www.ifas-japan.com/(一般社団法人IFAS)
(4) https://news.line.me/detail/oa-ehimenp-online/t86f6054xnac?mediadetail=1&utm_source=line&utm_medium=share&utm_campaig(愛媛新聞)
みほこ・ことば音楽教室『チアふる』講師
「否定されない環境がある」のは、自己肯定感を伸ばしていく上でとても大切ですね。
考えて動く力や主体性が伸びるために、自由な環境で教育するということは、人間性を育てるのには、とても重要なことと思いますし、社会で生きていくためには最も必要なことと思いました。
こども達が、しっかりと責任を持って、自分の好きなことに挑戦できるそんな大人になれるよう、私たち大人も好きなことを責任を持ってやっていきたいです。そこから、心の余裕が出来て子どもに接することが出来たら、いい循環になりそうですね。
もっと多くの人に、そのような学校があることを知ってもらいたいです。
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