保健室から見える子ども 〜「大丈夫」が最高の手当でした〜

保健室と担任の違い

『先生だけど、先生っぽくないね。』私たち養護教諭はよく、そんなことを言われます。

担任と養護教諭の主な違いは

  1. 児童生徒の心身の健康の保持増進を担う
  2. ケガの手当て、病気の子どもを休養させる
  3. 心の居場所として相談活動を行う

一方で、担任と同じ役割ももちろんあります。

それは、保健室も「教育の場」であるということです。

机に向かって勉強することだけが学びではありません。

コロナ禍で改めて浮き彫りになったのは「心身の健康」の大切さです。

いつの時代も、養護教諭は「健康」を教育の柱の一つとして捉えて子どもたちに伝えてきました。

保護者世代の方からすると保健室は、何か病気や特別な課題がある子が利用しないので「ほとんどの元気な子には関係のない場所」だと思われるかもしれません。

しかし、コロナ禍で病気が「絶対に自分には関係ない」と考える人はいたでしょうか?病気になるのは、決して特別な人ではありません。

誰にでも関わることであり、それは心の病気も同じです。

「しんどい」「疲れた」「もう無理かも」というメンタルヘルスの問題は、誰にでも突然やってくる可能性があるのです。

そんなとき、子どもが

  • どうせ相談しても変わらない
  • 人に迷惑をかけてはいけない
  • これくらい他の人は我慢している

と1人で抱え込むことは状況を余計悪くします。

しかし、子どもだけでなく日本社会全体がそうなりやすく、気軽にカウンセリングを受ける文化もなく、内閣府調査でも諸外国に比べ相談できない国とされています。

子どものメンタルヘルスリテラシーを高めるため、保健室が果たす役割は大きいと考えます。

体という字のほとんどは休むという字でできている

これはあくまで持論ですが「ズル休み」「サボり」「メンタル弱い」などの言い方は、一昔前の気合い、努力、根性の風潮や、我慢が美徳の文化が前提の言い方だなと感じます。

その言い方が良い悪いというのではなく、時代の変化と共にアップデートしていく必要があるのではないでしょうか。

かつて「体育会系」と言われていたアスリート業界は今、科学的エビデンスを基に

  • メンタルヘルスケアのため休む勇気が必要
  • 休養こそが日々のパフォーマンスをあげる
  • 人生100年時代を息切れしないで走るためあえて休む

というのが新常識になりつつあります。

2022年7月に女子バスケットボール選手の馬瓜エブリン選手が SNSで『元気だけど休む』という宣言をして話題になりました。

「この国において休むって大事件なんですよね。休まず何かを続けられるのって本当に素晴らしいことですし、私も心の底から尊敬しています!ただ自分には、休みが必要だったというだけなんです!」という言葉。

メンタルヘルスを大切にするプロアスリートの英断は人々に大きな影響を与えました。

元気でもあえて休んで「well-being」な状態を目指すことは例えアスリートでなくても大切なことだと思います。

「体という字のほとんどは休むという字でできている」というカンロ飴のキャッチコピーは、まさに保健室から子どもたちに伝えたいメッセージです。

むしろ、今すぐこの言葉を届けたいのは保護者の皆さんや先生方かもしれません。

子育て業も、教育業も、本当に過酷な感情労働です。大人側に心の余裕がなければ、成し得ません。

子育てしやすい社会、働きやすい社会を強く望みますが、変わるのを待っていたらその間に自分の体や心が壊れてしまいます。

「大人もどうか元気休みを」と心から願う養護教諭が、きっと全国各地にいると思います。

「大丈夫」が最高の手当て

保健室はあらゆる場面で、子どもたちに「大丈夫、大丈夫」と繰り返し伝えます。

怪我をして泣く子に、学校にくるのがしんどい子に、手を当てながら何度も何度も声をかけました。

そんな言葉一つで、血は止まりません。一瞬で問題は解決しません。

でも、それは確実に手当てなのです。

例えるなら「月明かり」のようなものです。

決して街灯のようには照らせないけど、青空のように幸せをもたらさないけど、不安で押しつぶされそうな真っ暗闇でそっと寄り添う心の羅針盤。

「大丈夫」の一言、自分自身にもかけてあげたい言葉です。

心と体の健康はSDGsに掲げられている全世界の共通課題です。

目標3−4では「メンタルヘルス」について正しい知識と教育の必要性が明記されています。

身体に診断名はなくても、それは不健康な状態かもしれません。

私もまだまだ勉強不足ですが、時代と共に変わる健康課題について子どもたちと共に学び続けたいと思います。

最後に、WHO(世界保健機構)の憲章に記載されている「健康の定義」を引用します。

健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。人種、宗教、政治信条や経済的・社会的条件によって差別されることなく、最高水準の健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権のひとつです。

WHO(世界保健機構)の憲章より

この記事を読んでくださった全ての方の、健康を祈っています。

かんちゃん・元中学校教員
学校現場で勤務している頃、保健室が心の拠り所となっている生徒は多くいました。そこでの会話から養護教諭が担任や学年部に連絡をし、問題が大きくなる前に対応できたことなどもあり、養護教諭の存在は学校全体にとっても大きな存在であると感じています。また、教員にとっても、一息つける場所になっている学校も多くあるのではないでしょうか。一方、保健室がたまり場のようになってしまうと、緊急の怪我人や病人の対応、日常の業務に支障をきたす可能性もあるので、保健室の負担が増えすぎてしまわないように、学校全体で連携やバランスをとっていく必要があると思います。
 
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